こころの中のひとびと
心・精神 診療のこと
こころはそれ自体が世界をなしています。中にはひとの他、魔物など、さまざまな生き物が住んでいます。これがよくわかるのが夢で、登場するひとびとの話から、そのひとのこころの在り方がわかることがあります。その中でも実際の世界の両親とは一応別の、こころの中の両親と自分との関係性はひとの生の質を決定づけます。
ある女性は、自分は生きる意味がない、早く死にたいと嘆き続けていました。治療の末、彼女は昔海で溺れて行方不明になった祖母の夢を見ました。検討した結果、この祖母は、彼女がこころの中で殺して放置した内的母親を表わしていました。こころの奥底に抱えていた実在の両親の関係に対する嫉妬・羨望から、彼女はこころの中の母親を殺し、その罪悪感に苦しみ、さらにこの死んだ内的母親と自分を同一と感じ、生きていると感じられずにいたのです。
この洞察を経て、彼女は生きる実感を回復していったのでした。
(2016年11月執筆)