自分の言葉で語るということ
心・精神
シェイクスピアの悲劇『ハムレット』の悲劇のヒロイン、オフィーリア。恋人ハムレットに「尼寺に行け」と言い放たれ、父を殺され、やがて精神的に変調を来してしまいます。この尼寺の場面、翻訳者の松岡和子さんによると、オフィーリアは父親の借り物の言葉で話しているそうです。
舞台でオフィーリアを演じた女優の松たか子さんに、「親に言わされていると思ってやってます」と言われて衝撃を受けたとか。シェイクスピアに登場する女性は皆強いのですが、オフィーリアは例外的に弱い、それは彼女が自分の言葉を持っていないからだ、と松岡さんは言います。
私たちがさまざまな苦難や苦悩に出会うとき、そこで生きて前に進むことを可能にするのは、さまざまな感情や意志を抱えて語る言葉の力、特に借り物でない自分で紡ぎだした言葉の力によるところが大きいのです。精神分析療法は自分の言葉を探すための旅路だということができるでしょう。
(2020年12月執筆)