マタイ受難曲
心・精神 診療のこと
母校の楽団によるバッハの大曲「マタイ受難曲」演奏会があり、少しお手伝いしました。聖書に基づく宗教曲で、声楽がキリストの十字架の苦難の物語を歌いあげ、楽団が悲しみの曲を奏でます。人間の原罪による苦悩と罰を、イエスが代わりに十字架として背負い亡くなることで人間は救われる。それがキリスト教の信仰ですが、曲中人間はイエスの苦悩を想い嘆く一方、イエスを罵倒してもいます。
この曲が感動を与えるのは、一つには人間が求める根源的なこころの関わり方を表しているからだと思います。例えば乳児は泣き叫ぶ時、言葉にならない苦悩と憤りを母親にぶつけています。母親は泣き声に苦しみ、時に憤り、こうして自分のこころで乳児の苦悩を代わりに背負います。そして自分に生じた感情を通じ、乳児の飢えを直感的に理解し、授乳という救いに変えるのです。それを復活と呼んでよいかは分かりませんが。
(2018年11月執筆)