傷つきと「傷ついた自分」の行方
心・精神 診療のこと
成長過程での傷つきは、虐待やいじめ、犯罪だけでなく両親の養育や環境が良好であってさえ不可避です。傷つきを訴えるひと、逆に子に責められ落ち込む親の話をうかがう機会は多くあります。
その傷つきを理解できると感じることも多いのですが、中に親に過大な要求を突きつけ、暴力を振ってしまうこともあります。お互いにとって悲劇ですが、この時こころは誰もが持つ破壊性に満ちた「暴力組織」に乗っ取られ、「傷ついた自分」の正当な痛みと怒りの訴えが空虚な復讐に置き換わっている、と見るのが専門家の意見です。
最大の悲劇は理解と癒しを求める「傷ついた自分」が、自分からも大事なひとからも切り離されることにあります。傷に触れること自体が痛みを伴うため、「組織」は「傷ついた自分」を周囲から暴力的に遮断するのです。しかし、この自分を見出し触れることで、ひとは少しずつ癒されていくのです。
(2018年5月執筆)